こんばんは。次回以降の北アイルランドの見所に関わる記事の参考になればと思い、今回は北アイルランド紛争の歴史考察に関する記事を書かせて頂きます。

英愛条約締結時の住民投票で北アイルランドのイギリス残留が確定

北アイルランドは、アイルランド共和国の土地ではありません。イギリスに属する土地です。

1922年にアイルランド自由国がイギリス領内の自治国家として不完全ながらも独立した際、取り結ばれた英愛条約により、カトリック住民が多数派を占めるコノート、マンスター、レンスターの3地方の26の州がアイルランド自由国、後のアイルランド共和国に属すことになりました。

一方、プロテスタント人口が多数派を占める北部のアルスター地方の6の州は、住民投票の結果、イギリスに残ることになりました。

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北アイルランド紛争の中心都市だったベルファストに建つシティ・ホール。

この決定に反発するアルスターのカトリック系住民の一部がIRA(アイルランド共和軍)に参画してイギリスの軍・警察やプロテスタント住民に対する無差別な爆弾テロを次々に引き起こし、これに対抗してプロテスタント系住民の一部もUVF(アルスター義勇軍)に参画してカトリック系住民に対する無差別テロで応酬します。

双方の無差別テロをイギリスの軍や警察が装甲車や戦車で鎮圧し、さらにはSAS(イギリス陸軍の空挺特殊部隊)が動員されて、IRAメンバーたちを裁判なしに無条件に暗殺もしくは投獄し、テロと無関係のカトリック系住民をも巻き込んで殺害する等、三つ巴の北アイルランド紛争が21世紀まで続くことになりました。

路線対立から分裂と殺戮合戦を何度も繰り返したIRA

もっとも、対立と殺戮合戦を繰り返したのはカトリック同士、プロテスタント同士でも同様です。

その傾向はIRAも同様で、元々のIRAは、マイケル・コリンズらアイルランド共和国の建国者たちが、反英武装闘争のために設立した組織です。独立戦争当時は比較的一枚岩だったIRAは、英愛条約への批准とアイルランド自由国の成立を巡って分裂し、飽くまで共和国としての完全独立を目指し、北アイルランドのアルスター地方の6州とも統合を目指す後のIRAが、アイルランド自由国との内戦を起こしました。

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アイルランド共和国国旗と81年のハンガーストライキで投獄されたIRAメンバーたちの写真を掲げるカトリック地区のフォールズ通り。

結局、アイルランド共和国は、アルスター地方の6州をイギリスに残したまま独立。その時点でまたIRAは分裂し、北アイルランドの統合を目指すグループが北に逃げ延びて次のIRAとなります。そして81年にはまたイギリスとの闘争方法を巡って分裂し、双方が双方へ無差別テロ合戦で応酬します。

こんな具合にIRAでは何度も分裂が繰り返され、その度にお互いを裏切り者と罵り合い、同じカトリック同士で互いに殺戮合戦を繰り広げてきているので、カトリック対プロテスタントという二極対立構図は必ずしも正確ではありません。実際、住民全てがみなIRAやUVFの殺戮路線を支持しているわけではない。

恐怖心から過激な行動に走ったプロテスタント

北アイルランドでは現在、一応プロテスタントが多数派を占めてはいますが、産児制限をしないカトリック人口が増え続ければ、いつプロテスタントが少数派に転落してもおかしくありません。このままではアイルランド共和国への統合が現実のものとなってしまうかもしれない。そういう恐怖心がかつての紛争時代にはプロテスタントを過激な行動に走らせ、今なお頑なな態度を取らせ、分断や亀裂を継続させているとも言えます。

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多数のイギリス国旗が掲げられたプロテスタント地区のシャンキル通り。

数千人の犠牲者の上に成り立つ平和の恒久的な継続を祈って

数十年に渡るこの紛争で、3000人を超える人々が犠牲になりましたが、そのうちの2000人以上は、IRAの爆弾テロによる犠牲者です。そしてUVFのテロによる犠牲者も500人近くに上ります。

カトリック側、プロテスタント側ともに過激さや頑なさは共通しており、双方が無差別テロを行い、イギリス軍もまた無辜の市民の虐殺に手を染めたので、要するにどっちもどっちです。キリスト教徒でもない私のような部外者には、どちらの過激さも頑なさも理解しがたいし、ましてや共感など全くできるものではありません。

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西ベルファストの非武装地帯に建つ慰霊碑。

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西ベルファストのカトリック地区とプロテスタント地区を隔てるピースライン(分離壁)。

カトリック地区、プロテスタント地区の分裂は現在も続いてはいますが、もう二度と暴力やテロに訴えることなく、平和だけは恒久的に継続してほしいものです。

参考文献

アイルランドの独立戦争から北アイルランドが生じる歴史的経緯については、以下の新書をお勧めいたします。

【中古】アイルランド問題とは何か イギリスとの闘争、そして和平へ /丸善出版/鈴木良平 (新書)
【中古】アイルランド問題とは何か イギリスとの闘争、そして和平へ /丸善出版/鈴木良平 (新書)

コンパクトな新書でありながらも、IRAの度重なる分裂や、シン・フェイン党の誕生、イギリスの和平に向けた取り組みなどについて、包括的に理解を深められる内容になっています。

IRA第4版増補 アイルランド共和国軍 [ 鈴木良平 ]
IRA第4版増補 アイルランド共和国軍 [ 鈴木良平 ]

同じ著者によるこちらの単行本は、IRAに関してさらに詳細に理解を深められる内容になっています。

北アイルランド問題に限らず、アイルランド全般を理解するための新書としては、以下をお勧めいたします。

【中古】 アイルランドを知れば日本がわかる 角川oneテーマ21/林景一【著】 【中古】afb
【中古】 アイルランドを知れば日本がわかる 角川oneテーマ21/林景一【著】 【中古】afb

日韓関係と英愛関係との対比、北アイルランド紛争解決後のイギリスとアイルランド双方の取り組み、「風と共に去りぬ」とアイルランドとのつながり等、興味深い話題が豊富に記されていてお勧めです。

さらに、まるで映画を観ているかのようなドキュメンタリーとして、NHKスペシャル単行本化の以下の書籍をお勧めいたします。



イギリス警察のスパイとしてIRAに潜入し、やがて正体が発覚して裏切り者としてIRAに追われる身になったカトリック側の若者と、彼の家族の半生を描いた内容です。事実は小説より奇なりとはよく言ったもので、この本を読んでいるとまるでスパイ映画でも観ているかのようです。

歴史的な出来事の記述も充実しており、プロテスタントの良識的な指導者たちがオレンジ行進の回避という英断をしたことで北アイルランドが内戦から救われたことなど、歴史の舞台裏を知る上でもお勧めの一冊です。