こんばんは。今日も私の記事を訪れてくださりありがとうございます。
さて、アイスランドという国に対して、どのようなイメージをお持ちでしょうか?
恐らく、多くの方々は、火山や氷河といった、壮大な大自然のイメージをアイスランドに対してお持ちかと思います。
確かに、壮大な大自然はアイスランドの大きな見所ですが、過酷な大自然を持つ環境の国で人々が営んできた産業を記録した博物館の充実もまた、アイスランドの隠れた見所の1つです。
そうした、過酷な環境下でアイスランドの人々が営んできた主力の産業の1つが漁業であり、首都レイキャビクの海洋博物館では、漁業の歴史に関する記録がとても充実しています。そして海洋博物館の中でとりわけインパクトがあり、私にとっては予想外の思わぬ発見であったのが、アイスランドvsイギリスのタラ戦争の記録でした。
というわけで今回は、アイスランドの漁業に興味をお持ちの方向けに、レイキャビク海洋博物館に展示されている、アイスランドvsイギリスのタラ戦争の記録に関する記事を書かせて頂きます。
目次
アイスランドvsイギリスのタラ戦争をご存知ですか?
タラ戦争とは、1958年~1976年にかけてアイスランドとイギリスとの間で繰り広げた、自国の漁業専管水域の海里数を巡る争いのことです。
1958年当時、アイスランドの漁業専管水域はわずか4海里でしたが、タラを始めとする自国の水産資源の保護と漁獲量拡大を目指し、1958年~1962年の第一次タラ戦争、1972年~1973年の第二次タラ戦争、1975年~1976年の第三次タラ戦争の3回に渡り、イギリスとの紛争を繰り広げました。
その結果、アイスランドの漁業専管水域は8海里、50海里、200海里と1回の紛争ごとに増加し、現在の世界的な漁業のルールである、200海里排他的経済水域の土台が形成されることになりました。
詳細は、タラ戦争(ウィキペディアの記事)をご参照ください。
映画「フェイス・オフ」を彷彿させる船同士の体当たり合戦!
奇跡的に死者は出なかったタラ戦争ですが、海上での両国の暴力の応酬は船同士の体当たり合戦に至るほどに激しいものでした。博物館の2階には、当時のタラ戦争に関わる写真が多数展示されています。
いずれも1976年にアイスランドの沿岸警備艇に意図的に体当たりするイギリスの海軍護衛艦の写真です。
当時の雑誌の表紙を飾るほどに事欠かない話題だったことが見て取れます。
海のカーチェイスか。真っ先に思い浮かぶのは香港映画界の巨匠ジョン・ウーがハリウッドで監督を務めたアクション映画「フェイス・オフ」の終盤で、ジョン・トラボルタとニコラス・ケイジが繰り広げた、赤と白のモーターボート2隻による体当たり合戦チェイスです。史実は映画より奇なり。
ネットカッターによるイギリス側のトロール漁船の漁網の切断
飽くまでアイスランドの博物館なので、展示もアイスランド側の視点でなされていることは割り引く必要があります。上の写真だけだとイギリスが加害者であるように捉えがちですが、アイスランド側もまた加害者的な行為を多々行ったことも事実です。
その1つが、アイスランドの漁船の船員たちが第二次タラ戦争時に作製し使い始めた、悪名高きネットカッターです。
ネットカッターは実物が館内に展示されています。
実物の傍には、ネットカッターを使用する当時のアイスランド人船員の写真もあります。
その傍には、ネットカッターの使い方に関する概略図も展示されています。要するにイギリス側の漁船の網をネットカッターに引っ掛けて切断してしまうわけで、漁業妨害以外の何物でもありません。
アイスランド側で使用したネットカッターにより、少なくともイギリス側の84隻のトロール漁船の漁網が切断されています。その報復でイギリス側は大型護衛艦を導入し、アイスランドの沿岸警備艇との体当たり合戦へとエスカレートしていきます。
破壊されたアイスランド側の沿岸警備艇
第二次、第三次タラ戦争の過程で、少なくとも54隻が体当たり合戦により破壊されました。館内には、破壊されたアイスランド側の沿岸警備艇の写真もあります。
とは言え、アイスランドが必ずしも被害者側ばかりではなく、ネットカッターを使ったり、航海上のルールを守らずに体当たりする加害者がアイスランド側である事例も多々あったことなどをきちんと展示の説明に記載しているのは、良い意味でアイスランドらしいところだとは思います。
何にせよ、これだけやり合って死者が全くでなかったのは奇跡だと言えます。
新聞が扇動する愛国主義と風刺画
「イギリスとは交渉しない、叩きのめすのみ」
国同士の紛争では往々にして新聞は右翼的な愛国主義を煽りがちで、アイスランドも例外ではなく、「イギリスとは交渉しない、叩きのめすのみ」という過激な扇動文句に満ちた当時の新聞が館内に多数展示されています。
扇動文句に満ちた当時の新聞の紙面の展示です。
またイギリスを皮肉った当時の新聞紙面上の風刺画も多数展示されています。
度が過ぎる愛国主義はろくなことにならないという、悪い意味での好例ですが、それでも中東などの流血を伴う暴動や内戦に比べると、アイスランドとイギリスのタラ戦争は流血が全くなかっただけ大分ましではあります。
アイスランド全土での抗議デモ
海上での船同士の体当たり合戦の傍ら、陸上ではイギリスへの抗議デモが全国規模で湧きあがりました。以下、当時のアイスランド全土のデモの写真です。
200海里実現を訴えるレイキャビク市内の大規模デモの写真。
船員とその家族たちによるデモ。イギリスに向けられた「GO HOME(国に帰れ)」というプラカードを、楽しそうに笑顔を浮かべながら掲げています。現金なものですね。
デモに参加する看護婦たち。
イギリス大使館前での抗議デモ。
そしてこちらは沿岸警備艇の船員の妻たちによるデモの写真になります。
タラ戦争を経てなおタラの漁獲量が減少した漁業
自国の漁業専管水域を200海里まで拡大しようとするアイスランドの主張が全面的に認められ、200海里排他的漁業専管水域の確立によって終結したタラ戦争。奇跡的に死者が出なかったとは言え、ここまでやり合う必要があったのかという気はします。度が過ぎる愛国心が絡むと皆が冷静でなくなり、ろくでもないことが多々起こるのは、どこの国でもほとんど変わらないようですね。
タラ戦争を経て漁業専管水域を大幅に拡大したにもかかわらず、アイスランドのGDPに占める漁業の割合は低下し、なおかつタラの漁獲量は減少し、それがタラの価格の上昇や国内消費量の低下をもたらしています。
タラ戦争を経てなお減少してしまったタラの漁獲量は今後取り戻せるのか、アイスランドの漁業は今後活性化するかどうか。レイキャビクでシーフード料理を食される際には、イギリスとの戦争にまで至ったタラについて、想いを馳せてみてください。
レイキャビク海洋博物館の各種情報
入場料
博物館内部だけの見学はkr1500。オージン号の船内ツアーだけでもkr1500。博物館見学+オージン号ツアーのセットであればkr2200。
開園時間
博物館の開放時間は10時~17時。オージン号の船内ツアーは13時、14時、15時の3回。
アクセス
14番の市内バスのグランダガズル(Grandagazur)のバス停から徒歩1分。
バス停から見た博物館の外観。
博物館の港側に停泊している沿岸警備艇オージン号の外観。船内ツアーは今回は時間が合わず果たせなかったので、次回のお楽しみにしたいと思います。
レイキャビクでの市内バスの乗り方
市内バスの乗車券の購入場所は少なく、ケフラヴィーク国際空港の他、10-11というスーパーマーケットでも購入できます。1回だけの乗車券はkr440、1日券はkr1500、3日券はkr3100になりますので、滞在中の乗り降りの頻度に合わせてご活用ください。なお、運転手から現金で乗車券を購入することもできますが、お釣りが出ませんのでご注意。
10-11スーパーマーケット。緑色の看板が目印。
レイキャビク市内のバス。どの路線のバスも一様に黄色い車体です。
市内バスの路線図は、上述のケフラヴィーク国際空港や10-11スーパーマーケット、あるいは滞在中のホテルでも入手可能なので、目的地の最寄りのバス停をご確認の上、該当する路線バスをご活用ください。
市内中心部にあるライキャルトルグと、ケフラヴィーク国際空港と市内を結ぶフライ・バスの発着するBSIバスターミナルに行くには、主に1番、3番、6番の市内バスを使います。バスの本数はどの路線も1時間に4本程度です。
周辺地図
(参考に)アイスランドの各種情報
航空券
日本からの直行便はありません。東京(羽田or成田)からだとパリ、コペンハーゲン、ヘルシンキ、アムステルダム等の経由便があり、乗継地までは約12時間、そこからレイキャビクまで3~4時間程度の移動となるため、乗継の待ち時間を含めて約20時間かかります。
航空会社はエアフランス、スカンジナビア航空、フィンランド航空、KLMなど。
航空運賃は28万円~35万円が目安ですが、GW休暇や盆休みなどの連休や、航空会社の時間帯によって航空運賃が40万円近くまで跳ね上がることもあるのでご注意。
詳しくは、HISやスカイチケット、エクスペディアなどで航空券の検索を。
海外旅行はエイチ・アイ・エス
ビザ
3か月以内の滞在であればビザは不要。ただしパスポートの有効期限が、アイスランドを含むシェンゲン協定加盟国出国時に3か月以上残っていることが必要となります。それ以上の滞在や留学などはビザが必要であるため、駐日アイスランド大使館などでご確認を。
言語
公用語はアイスランド語ですが、英語の通用度は非常に高く、市内バスやタクシーでも普通に英語が通じます。交通標識や案内掲示板などにもアイスランド語と英語が必ず併記されているため、英語が話せれば不自由に感じることはありません。
通貨
通貨単位はクローナ(単数)とクローヌル(複数)。現地表記はkr。kr1が約1円程度に相当。
時差
日本よりマイナス9時間。
宿泊施設
安価なホテルであっても最低15000円/泊はかかり、そこそこ設備の良いホテルだと20000円/泊以上かかります。ホテルに限らず、1食最低5000円以上かかる食費や交通費など、アイスランドでは全般的に物価が高いです。
10000円/泊未満で泊まれるホテルもありますが、寒いのに暖房が使えなかったり、市内中心部に行くのに市内バスで20分以上かかってアクセスが不便だったりといった難点があるので、あまりお勧めはしません。
ホテルの条件(Wi-Fi、冷蔵庫、エアコン、目的地へのアクセス等)をよくご確認ください。夏季や冬季の長期休暇が近づくほど宿泊費が高くなるため、早めに予約するようにしてください。詳しくはエクスペディアやBooking.com、トリップアドバイザー等で検索を。
リアルタイム空室確認が分かりやすい!エクスペディアの海外ホテル
海外ホテル検索、Booking.com
TripAdvisor (トリップアドバイザー)
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