こんばんは。前回に引き続き、フィリピン革命の精神的指導者であり、フィリピンの国民的英雄であるホセ・リサールに関する歴史考察の記事を書かせて頂きます。

若い革命家たちに大きな影響を与えたホセ・リサール

スペイン植民地政府から武装蜂起の首謀者と決め付けられ、35歳の若さで処刑されたホセ・リサール。本当に武装蜂起にリサールが関与していたかどうかはともかく、完全な独立と革命をリサールが目指していたことは確かですし、ボニファシオやアギナルドたち若い革命家たちにリサールの思想が大きな影響を及ぼしたことは確かです。

武装蜂起に囚われず教育と労働で祖国の再建を目指す

その一方で、流刑先のダピタンで教育と労働による祖国の再建を実践していたように、リサールは決して、武装蜂起してスペイン植民地から独立すれば、全ての問題が解決すると考えていたわけではありません。

確かに植民地支配は悪であり、フィリピンのみならず、植民地にされた国々の政治的・経済的停滞を招いた最大要因であることは確かですが、それを排除したからといって、全ての問題が即座に解決するわけはありません。国が抱えている問題は、原因が複合的であるものが多いからです。

理念と現実の間に今なお大きな隔たりがあるフィリピン社会

実際、独立して民主主義も実現したはずの現在のフィリピンでは、未だ政治の腐敗と停滞が続き、警察官の多くが賄賂目当てで凶悪犯罪に手を染め、未だに学校にも行けず、物乞いをする幼い子供たちが無数にいます。もしリサールが現代に生きていたら、独立後の祖国の現状に恐らく心を痛めるのではないでしょうか。

確かに国全体で見れば植民地時代よりも遥かに豊かになりはしたものの、リサールが目指した、教育と労働により再建された自由な国という理念と、フィリピンの実際の社会の現実とは、現在でもまだまだ大きな隔たりがあるように思えます。

自由な心と明確なビジョンは世界の人間にとって代えがたい資質

いずれにせよ、リサールは固定観念に囚われない自由な心を持っており、教育や労働による祖国の再建といった、革命後のビジョンもきちんと描いていました。そして医学を始め、世界で学んだ様々な知識と多彩な才能を活用して、そのビジョンを実現しようとしました。

これはフィリピンに限らず、この世界の人間にとって、代えがたい資質であることは間違いないでしょう。ホセ・リサールを国民的英雄になれたのは紛れもなくこの資質のためだと言えます。ホセ・リサールがあと20年もしも生きていれば、フィリピンも今よりもっと良い国になっていたのでしょうか。

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イントラムロスの公園内にあるホセ・リサールの胸像(イントラムロス訪問時に撮影)。

未だに政治が混乱し、腐敗と汚職が蔓延する今のフィリピンにおいて、より一層の自由を求める心、教育や労働による祖国の再建といったビジョンは、形こそ変われど、今後ますます必要とされるような気がします。

革命の犠牲者たちの中で突出した存在のホセ・リサール

革命や独立運動に身を投じ、犠牲になった多くの人たちの中でも、やはりホセ・リサールの存在は突出しています。

誰よりも自由を渇望し、死を覚悟しながらも、生への執着が強かったこと、革命を目指しながらも、決して武装蜂起の発想に囚われず、教育や労働による祖国の再建といった明確なビジョンを持ち、流刑先のミンダナオ島のダピタンでそれを見事に実践していたこと。

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自由と生を強く渇望したリサールの心が根付いているかのように、明るい雰囲気に包まれたリサール記念館の様子(訪問時に撮影)。

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やはりリサールの心が根付いているかのように、明るい雰囲気に包まれたリサール公園の様子(訪問時に撮影)。

医師、哲文学者、作家、画家、彫刻家、20か国語以上に精通した翻訳家として、多彩な才能を発揮したこと、世界の様々な国に留学・旅をし、香港で眼科医を開業する等、世界の視点から祖国の現状を客観的に把握することができていたことなど。

ホセ・リサールは国民的英雄と呼ばれるに相応しい、本当に特別な資質を持つ人物だったと言えます。

悲劇的な最期ではなく生き方にこそ意味があった国民的英雄たち

どこの国にも国民的英雄とされる人物はおり、アメリカではリンカーン、日本では坂本龍馬がそれに該当するでしょうか。そしてリンカーンや坂本龍馬と同様、国民的英雄として類まれな資質を持った人物ほど、暗殺や処刑等により、若くして悲劇的な最期を迎えてしまいます。

ホセ・リサールもまた、若くして悲劇的な最期を遂げました。その意味で国民的英雄という言葉を捉えると、どうしても殉教者・殉職者としての意味合いが強くなってしまいますが、彼らの最期ではなく生き方にこそ大きな意味があります。

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ホセ・リサールに関する他の歴史考察に関しては、下記の記事も併せてご参照頂ければ幸いです。
フィリピンの国民的英雄であるホセ・リサールに関する歴史考察①
フィリピンの国民的英雄であるホセ・リサールに関する歴史考察②
また、ホセ・リサールに関するフィリピンでの観光の見所については、下記の記事をご参照ください。
国民的英雄ホセ・リサールが最期を過ごした場所―フィリピン・マニラ/リサール記念館①
国民的英雄ホセ・リサールが最期を過ごした場所―フィリピン・マニラ/リサール記念館②
国民的英雄ホセ・リサールが処刑された場所―フィリピン・マニラ/リサール公園①
国民的英雄ホセ・リサールが処刑された場所―フィリピン・マニラ/リサール公園②
記事を閲覧してフィリピンでの見所に興味を持って頂いたら、是非お仕事やご旅行でフィリピンに行かれた際に訪問して頂き、ホセ・リサールという人物について想いを馳せてみて頂ければと思います。

参考文献

今回の記事を書くにあたって参考にさせて頂いた、ホセ・リサールやフィリピン革命についての参考文献を以下、紹介いたします。


スペインに始まり、アメリカや日本と続いた植民地支配の時代、マルコスによる軍事独裁政権に至る、「抵抗史」としての側面からフィリピンの歴史を一通り俯瞰する上でお勧めです。コンパクトな新書ながら中身が濃く読み応えがあります。


フィリピンの政治、経済、歴史、文化に関する基本的な事柄を一通り俯瞰する上でお勧めです。明石書店のエリアスタディーズの中ではこのフィリピン編はかなり中身が濃く、また読者の興味を引くエピソード等も多々盛り込まれています。


ホセ・リサールやフィリピン革命に特化した、専門的な知識を得る上でお勧めです。同書を読んだ上でマニラや他都市のフィリピン革命関連の歴史的な見所を訪問すると、感慨が一層深まるかと思います。