こんばんは。今日も私の記事を訪問してくださりありがとうございます。

 

イラクの治安が一向に良くならないことの裏返しとして、サダム・フセイン政権時代の過去のイラクが美化・崇拝される傾向が強まっている気がします。しかし、無差別テロ組織に汚染されたイラクの現在に対して、サダム・フセイン政権を比較対象として持ち出すのであれば、そもそもサダム・フセイン政権とはどういう政権だったのかをまず理解しておく必要があります。

 

湾岸戦争やイラン・イラク戦争、シーアやクルド人の弾圧や虐殺のように、サダム・フセイン政権時代のイラクが国内外に及ぼした深刻な脅威は決して、「イラクの発展の大きさを考えれば、無差別テロ組織による犠牲と比べれば、大したことではない」などと切り捨てられるものではないからです。

 

今日は、イラクの歴史に興味のある方向けに、サダム・フセイン政権時代のイラクの歴史に関して参考になればと思い、サダム・フセイン政権が国際社会に及ぼした深刻な脅威の1つである、湾岸戦争の歴史考察に関する記事を書かせて頂きます。

 

 

クウェートに対するイラクの暴挙が国際社会の非難を招く

 

クウェートの侵略により首長の弟を含む数千人のクウェート人を殺害し、40万人を超えるクウェート人を祖国から追いやった、サダム・フセイン政権のイラク。クウェート侵略前はサダムのクウェートに対する恫喝をコケ脅しとして軽視し、事態を深刻に受け止めていなかったアメリカや国際社会も、これほどの暴挙をサダムとイラクがやらかした後では黙って傍観するわけにはいきません。

 

 

国連決議に基づく多国籍軍の介入で10万人のイラク人が犠牲に

 

1991年8月2日にはイラクを非難しクウェートからの無条件での即時撤退を要求する国連安保理決議660が採択され、11月29日には翌1991年1月15日を撤退期限と定めて対イラク武力行使を容認する国連安保理決議678が採択。

 

この間イラクは、アラブ対イスラエルへの問題のすり替えや、イラク国内の外国人を人質に取った「人間の盾」等によってアメリカや国際社会への揺さぶりをかけますが叶わず。

 

遂に91年1月17日には多国籍軍による空爆は始まり、湾岸戦争が開始。3月3日には停戦協定が成立し、イラク軍はクウェートから撤退。多国籍軍の犠牲者だけでも300人以上に上り、イラク人の湾岸戦争での犠牲者は10万人に達するとされています。

 

 

サダム・フセインが行った非人間的な人質政策「人間の盾」

 

「人間の盾」は、サダム・フセインが湾岸戦争時に行った方策の中で最も非人間的なものでしょう。当時イラク軍が引き起こした人間の盾の中で、代表的なのはブリティッシュエアウェイズ149便(BA149便)乗員拉致事件です。

 

クウェートとインドを経由してイギリスからマレーシアに渡航することになっていたはずの同便の乗客と乗務員385名は、クウェートへの着陸と同時に、イラク軍によって全員が拉致され、クウェート市内のホテルに監禁されました。

 

その後、欧米諸国の国籍を持つ乗員に限り、クウェートに滞在してた他の欧米諸国の市民たちとともにバクダッドまで強制連行され、多国籍軍の攻撃をかわすため、政府や軍の主要施設に人質として監禁されることになります。

 

この人質政策でサダムとしては国連や多国籍軍に参加する国々の戦意を挫き、イラクの立場を有利にできると考えたのでしょうが、実際には全く逆の結果になり、国際社会から非難轟轟となり、国連安保理の対イラク武力行使容認決議を促進する動きにつながりました。

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イラクによる油田放火でクウェートは深刻な海洋汚染と大気汚染に

 

この侵略でイラクがクウェートにもたらした被害は人命の喪失に留まりません。米海軍部隊の上陸阻止の名目でクウェートの石油が海上に流出され、多国籍軍への焦土作戦の名目で、イラク軍はクウェートの700以上の油井に放火しました。

 

油田の放火では毎日約600万バレルの石油が焼失し、消火には10か月の歳月と15億米ドルの経費を要しました。これによってクウェートは貴重な天然資源を奪われただけでなく、深刻な海洋汚染と大気汚染に見舞われることになりました。

 

 

今なお根強い目に余るサダム・フセイン信仰

 

サダム・フセインがイランに続いて性懲りもなく起こした馬鹿げた戦争のせいで、数千人のクウェート人のみならず、10万人にも上るイラク人の犠牲がもたらされました。

 

にもかかわらず、反米意識のせいか、イスラム国や無差別テロリストによって無法地帯にされてしまったイラクの現状に対する過去の美化のせいか、サダム・フセインを美化・崇拝する人が、アラブ・イスラム世界どころかこの日本にも多く、非常に目に余るものがあります。

 

 

サダムに侵略された国々や殺された異民族はどうなるのか

 

私自身もイラク戦争には反対でしたが、だからと言ってサダム・フセインを美化・崇拝する類の論調ははっきり言って気持ちが悪いです。彼に侵略され殺されたクウェートやイランの人たち、虐殺されたクルド人やシーア派の人たちはいったいどうなるのでしょうか。

 

 

民主主義を軽視する主張が広範囲に浸透する日本の歪み

 

左右を問わず、この日本でサダム・フセインを美化・崇拝する人たちに共通しているのは、太平洋戦争の際にアメリカに敗北した恨みが、そのままフセイン政権への肩入れや応援となって投影されていたということです。ですので空爆によるイラク人の犠牲に対しては声高にアメリカを非難する一方、フセイン政権下で虐殺された何十万人もの犠牲に対してはダンマリを決め込んでいるのが特徴です。

 

独裁体制を美化し、恐怖政治による無数の犠牲を無視して切り捨てる主張が蔓延するのは、戦前・戦中、70年代から現在に至るまで相変わらず続いている傾向ではありますが、こうした民主主義を軽視する人たちの主張がさも高尚で知的であるかのように広範囲に受け入れられているのは、この日本という国が持つ歪みの象徴と言えるような気がします。

 

 

参考文献

 

湾岸戦争やイラクの現代史についてさらに詳しく知りたい方には、以下の参考文献をお勧めいたします。

反米でも反イラクでもない客観的な筆致で書かれた、日本ではイラクの第一人者である酒井啓子氏の本書は、独立後の王政時代から流血クーデター、バース党独裁から個人独裁に至るイラクの政権の歴史、各時代に置かれたクルド人やシーア派の状況、湾岸戦争後に起きた反政府蜂起に対する弾圧、国連による査察や国内外の反政府活動の動向など、フセイン政権のイラクを俯瞰する上で、最低限これだけは読んでおくべき1冊です。

 

 

こちらは同じ酒井啓子氏による、そもそもサダム・フセイン政権とはどのような構造なのか、について掘り下げた著書になります。バクル大統領の時代からのバース党の独裁体制の変遷、アラブ・スンナ派偏重やティクリート派の位置付け、大統領親族間の権力争い、イラク国民議会の沿革と実際の民意の乖離など、フセイン政権の権力構造とそれを取り巻くファクターについて、詳しく知る上でお勧めです。

 

 

中東情勢に関して第一人者であるイギリスのジャーナリストの著書。基本的にサダム政権に批判的な立場なので、多少の偏りはありますが、かと言って決してサダムを悪魔扱いはせず、様々なルートで得られた各情報が信頼に値するかどうか、慎重に精査して事実を積み上げていることが見て取れます。また、王政時代やカーシム政権とバース党の対立など、サダムが政権を担う前のイラクの歴史をも詳しく知ることができます。

 

 

常にすぐ傍にいた主治医の回想録ということもあり、こちらもサダムを悪魔扱いする内容ではありません。むしろ読み取れるのは、傲慢さや高圧さと一緒に孤独感や気の弱さを併せ持つといった、サダムの複雑な人物像です。またイラクの不幸の原因をサダム1人に擦り付けず、彼の息子たちや側近たち、腐敗した政府の責任もきちんと記している点も、公平な書き方で評価できます。

 

 

こちらはサダムに無理やり愛人にされた女性の回想録。主人公はサダムの愛人扱いされることを嫌がり、自分の人生を破壊したサダムに嫌悪を抱いていますが、一方で初めのうちはサダムに恋心を持っていたように、サダムに対してどこかしら情を抱いており、決してサダムを悪魔のようには描いていません。サダムよりもむしろ、上述の主治医の回想録と同様、イラクの政府の腐敗や、サダムの長男ウダイの残虐さの記述の方が際立っています。

 

 

おすすめ映画

 

湾岸戦争に至る経緯をフセイン政権サイドの視点から知る上では、以下の映画がおすすめです。

サダム・フセインの長男ウダイに無理やりウダイの影武者にさせられた主人公ラティフの苦悩を描いた、実話に基づく内容です。直接的には、残虐極まりない異常人格者ウダイとごく普通の善良な主人公ラティフの対比、両極端の人間を1人2役で演じた主演のドミニク・クーパーの怪演ぶりが一番の見所ですが、湾岸戦争に至る経緯も知ることができます。かなり気が滅入る内容の映画ではありますが、全編緊迫感が漂う見応えある映画ではあるので、一見の価値はあります。

 

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