旅行や出張で台湾に行かれた際の参考になればと思い、日本統治下の時代の台湾に関する歴史考察の記事を書かせて頂きます。

台湾の植民地統治の立役者・児玉源太郎と後藤新平

台湾では1代目から3代目の総督の時代はゲリラの鎮圧に明け暮れ、発展らしい発展がもたらされなかったため、インフラ整備、衛生状況の改善、産業の振興、教育の充実といった、後に台湾の発展につながる土台が築かれ始めたのは、1898年から台湾総督府の4代目の総督となった、児玉源太郎の時代からです。

そしてこの児玉総督の下で実務にあたり、台湾の植民地経営に後に大きな足跡を残すことになるのが、総督府の3代目の民生長官を務めた、後藤新平です。

固定観念や先入観にとらわれない後藤新平の独自手法

後藤が42歳という若さで民生長官に抜擢されたのは、固定観念や先入観にとらわれない、独自の手法を評価されたためです。例えば当時、台湾の阿片問題を巡り、「厳禁論」と「非禁論」が真っ向から対立し、議論が平行線を辿っていましたが、後藤はそのどちらでもない「漸禁論」を提唱し、阿片を国家による専売事業とする方針を採りました。この方針は阿片吸飲者を漸減させると同時に、専売による歳入を増やし、さらには各地の台湾人を小売人と仲売人に指定することでゲリラ対策に協力させることにもなり、まさに独自の発想と手法が一石三鳥の効果をもたらす結果となりました。

後藤新平の「生物学的植民地経営」

後藤の持論であり、台湾の植民地経営でも実践された「生物学的植民地経営」は、固定観念や先入観にとらわれない後藤の性格を知ることができ、名言に値する考え方だと思いますので、以下、彼の名言を転載いたします。

    ヒラメの目を鯛の目にすることはできんよ。
    鯛の目はちゃんと頭の両側についている。
    ヒラメの目は頭の片方についている。
    それがおかしいからと言って、鯛の目のように
    両方に付け替えることはできない。
    ヒラメの目が片方に2つ付いているのは、生物学上
    その必要があるからだ。
    政治にもそれが大切だ。
    だから吾輩は、台湾を統治するときに、まずこの島の
    旧慣制度をよく科学的に調査して、その民情に応ずるように
    政治をしたのだ。
    これを全く理解しないで、日本内地の法則をいきなり
    台湾に輸入実施しようとするやつらは、ヒラメの目を
    いきなり鯛の目に取り替えようとするやつらで、
    本当の政治というものを何も解っていないやつらだ。

いかにも医者らしい着想と言葉遣いですが、要するに現地の文化や慣習を尊重するということでしょうか。当時の政治事情と医者の言い方を踏まえると後藤独自の考え方にも取れますが、海外の人たちとの交流が当時よりも当たり前になった現在では、むしろ普遍的な考え方に近いようにも思えます。

アメとムチを使い分けた台湾の統治

むろん、後藤の統治方法も、現在の価値観だけで考えれば100%肯定できるものではありません。後藤の統治方法の特徴はアメとムチの使い分けと言えるもので、医学校や病院の新設、上下水道や公共衛生施設の充実、水力発電、製糖業、鉱業、縦貫鉄道、海運業の育成など、数多くの近代化の土台を築く一方で、警察政治による連座制や相互監視・相互密告を強化し、ゲリラに対して容赦ない弾圧と処刑を行いました。

その意味で児玉も後藤も見方や価値観によって評価が大きく分かれる人物ですが、近代化の土台を築くことで、両者とも台湾に大きな足跡を残した人物であることは間違いありません。

参考文献

オランダの植民地時代や鄭成功の時代、そして国民党の独裁体制下の時代と民主化に至る、台湾の400年の歴史について手っ取り早く知りたい方には、以下の中公新書を参考文献としてお勧めいたします。

台湾 四百年の歴史と展望 (中公新書)
伊藤潔
中央公論新社
2013-11-08



日本の統治時代以外の時代についてもコンパクトながらかなり詳しくまとめられており、台湾の歴史的な文化遺産の観光をされる際には、事前に是非読んで頂きたい1冊です。新書だと思って侮ってはいけません。

日本の植民地統治下に築かれ、現在も台湾で活用されている文化遺産については、以下の祥伝社新書をお勧めいたします。



こちらも台湾で日本の統治時代の文化遺産を観光される際の、事前の必読書と言えます。

台湾で最も尊敬されている日本人技術者、八田與一技師については、以下をお勧めいたします。



八田與一技師を知る上では必読書です。また、八田技師が赴任されるよりも前の台湾の歴史や文化、日本の植民地統治下で電力不足や水不足の解消が急務だったことなど、烏山頭ダムや嘉南大圳が必要とされた背景についてもかなり詳しく知ることができます。

歴史関連の台湾の旅行記としては、司馬遼太郎の台湾紀行がお勧めです。

街道をゆく 40 台湾紀行
司馬遼太郎
朝日新聞出版
2015-02-05



特定のテーマを重点的に学ぼうとすると物足りない印象を受けますが、台湾の歴史に対する司馬氏の深い知見には一読の価値があります。