旅行や出張でフィリピンに行かれた際に、太平洋戦争の話題や関連スポット訪問時の参考になればと思い、歴史考察の記事を書かせて頂きます。今回はマニラ市街戦と住民の大虐殺について。

追い詰められた日本軍の狂気と住民の大虐殺

1945年2月、マニラ市街戦が激化する中、抗日ゲリラと一般市民の区別がつかなくなった日本軍は、「徹底討伐」の名目で、マニラ市民の虐殺に手を染めていきます。敗北後に米軍に押収され、戦後に東京裁判で証拠として提出された海軍陸戦隊の命令書には、「各地区とも住民は全面的に敵と連絡、我らを困窮せしむるものあり。これに対し断固容赦せざるを決す」、「比島人を殺すには極力1か所にまとめ、爆薬と労力を省くよう留意せよ。死体処理うるさきを以て、焼却予定家屋に集め、あるいは川に突き落とすべし」などと書かれており、追い詰められた日本軍の狂気を窺い知ることができます。

憲兵隊本部が置かれたイントラムロスのサンチャゴ要塞

現在は観光名所として有名な、イントラムロス内のサンチャゴ要塞でも、要塞内に置かれた憲兵隊本部内で米比軍捕虜や抗日ゲリラ活動容疑で逮捕されたフィリピン人たちが拷問・虐待を受け、処刑されました。

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拷問や虐待を受けた約600人のフィリピンの人たちが閉じ込められ、満潮時に水死させられた、サンチャゴ要塞内の地下牢跡(訪問時に撮影)。

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サンチャゴ要塞内に立てられた、太平洋戦争で犠牲になった人たちのための十字架(訪問時に撮影)。

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米軍に押収され東京裁判で証拠として提出された、マニラ市民の虐殺を指示する日本軍の命令書。(写真はNHKのDVD「証言記録・マニラ市街戦」の映像より抜粋)

10万人以上が犠牲になったマニラ市民

2月25日には岩淵司令官が自決し、3月3日には米軍にマニラの全拠点が制圧されました。マニラ市民の犠牲は10万名以上に及びましたが、抗日ゲリラへの復讐感情に駆られた日本軍の兵士たちがマニラ市民への無差別虐殺を行ったことが、犠牲者数を増やしたことは間違いないでしょう。一方で米軍の無差別砲撃による犠牲者も3割を占めるとされています。

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戦火の中を逃げ惑うマニラ市民たち。(写真はいずれも、NHKのDVD「証言記録・マニラ市街戦」の映像より抜粋)

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イントラムロス内にある、太平洋戦争の犠牲者の慰霊碑(訪問時に撮影)。

ワルシャワに次ぐ規模で破壊された「東洋の真珠」マニラ市

膨大な人命の犠牲のみならず、かつては「東洋の真珠」と呼ばれたマニラの美しかった市街そのものも破壊されて廃墟となり、第二次大戦における連合国側の都市の被害としては、ナチスドイツの無差別攻撃で破壊されたワルシャワ市に次ぐ規模の被害だったとされています。

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市街戦で廃墟になったマニラ。(写真はいずれも、NHKのDVD「証言記録・マニラ市街戦」の映像より抜粋)

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米軍の無差別砲撃と立て籠もった日本兵たちの反撃によって破壊されたイントラムロス。(写真はいずれもNHKのDVD「証言記録・マニラ市街戦」の映像より抜粋)

日本の戦後はフィリピンや東南アジアの赦しから再出発した

この戦争による一番の犠牲はアジア諸国の現地の人たちです。特にフィリピンでは、戦後の反日感情・復讐感情は中国以上に凄まじかったわけですが、現在のフィリピンではもう反日感情は殆ど見られず、日本人と見ると温和に人懐こく接してくれる人たちが多い。日本の戦後がフィリピンや東南アジア諸国の人たちの赦しによって再スタートしたことを忘れず、現在の日本や日本人に好意的に接してくれる東南アジアの人たちに深く感謝しなくてはならないと思います。

参考文献

マニラでの虐殺を始めとする、日本軍の戦争犯罪、BC級戦犯としての裁判やモンテンルパ刑務所での日々、キリノ大統領による恩赦と帰国までの流れについては、以下をお勧めいたします。


マニラ市街戦を簡潔にまとめた書籍としては、NHKの以下の取材記をお勧めいたします。


マッカーサーや米軍側の立場からマニラ市街戦を捉えた書としては、以下をお勧めいたします。



フィリピンに限定はされませんが、左右のイデオロギーを排して、太平洋戦争の経緯について淡々と記した良書としては以下をお勧めいたします。

太平洋戦争〈上〉 (中公新書)
児島襄
中央公論新社
2014-07-11


太平洋戦争〈下〉 (中公新書)
児島襄
中央公論新社
2014-07-11



フィリピンについては殆ど記述はありませんが、BC級戦犯たちの戦争犯罪と戦後の裁判を全般的に記した記録書としては、以下をお勧めいたします。

「BC級裁判」を読む (日経ビジネス人文庫)
半藤 一利
日本経済新聞出版社
2015-07-02



日経ビジネス人文庫での、日本を代表する中立的な歴史家4名の共著ということもあり、左右のイデオロギーを排して淡々と史実のみ積み上げた内容には読み応えがあります。当然、日本軍や日本兵を絶対悪として一方的に断罪する内容ではありません。むしろ、家族や友人を大切にする、平時であれば紛れもなく善良な人たちが戦争犯罪を担ったという、戦場の狂気、そして国際社会や国際法との間にあまりに大きな認識の乖離を生んだ、日本という閉鎖的な国柄と組織体制がこの問題の最大要因であることが読み取れます。その意味で、BC級戦犯は過去の問題ではなく、現在も見受けられる日本という国の病理の問題と言えます。

参考映像資料

また、マニラ市街戦の全貌を記録した映像資料としては、同じくNHKの下記DVD資料をお勧めいたします。



仲間の犠牲を防ぐために市街への無差別砲撃を遂行した米軍兵士たち、戦友を目の前で殺されていく一方で抗日ゲリラやマニラ市民の虐殺に関与した日本人兵士たち、米軍の砲撃で家族を殺されたマニラ市民、日本軍に目の前で家族を連行され、二度と家族に再開できなかったマニラ市民、家族を奪われた復讐心から別の日本兵を殺害したマニラ市民、証言した人たちの多くが当時を思い出して泣いています。重苦しい内容ですが、過去の悲しい時代を忘れないために、鑑賞して頂きたいと思います。