旅行先で太平洋戦争の話題になったり、関連する観光スポットを訪れた際の参考になればと思い、太平洋戦争の歴史考察の記事を書かせて頂きます。今回は大東亜共栄圏と八紘一宇について。

現実と乖離した欺瞞の象徴

理念と現実とがあまりにも大きく乖離するとその理念自体が欺瞞に満ちたものとなり、失望や憤りや虚しさばかりが膨らんでいくものですが、日本軍が唱えた理念やスローガンの中でも、この大東亜共栄圏と八紘一宇ほど、欺瞞に満ちたものもないような気がします。

日本軍の目的は現地からの資源の奪取

「欧米植民地からのアジアの人々の解放」などと表向き唱えてはいますが、そんなものは建前に過ぎず、実際の日本軍の目的は現地の資源の奪取でした。当時の企画院の計算では、石油の場合、日本の当時の保有量は840万キロリットル、新たな生産量は年に40~50万キロリットルしか望めず、民需用180万キロリットルと仮定して軍需用から転用しても、3年後には民需用・軍需用ともに供給不能になるとされていました。

一方で開戦して南進すれば、南方にはインドネシアの石油やボーキサイトや鉛、マレーシアのゴムや錫や鉄鉱石、ビルマやタイの米を始め、豊富な資源に満ちており、フィリピンにも銅や材木があります。フィリピンの場合、アメリカから南方への資源の輸送ルートを奪取するという目的もありましたが、いずれにせよ、日本軍は現地の人々のための統治を目指したわけではありません。

東南アジアでの日本軍による過酷な支配の実態

日本軍の軍政の実態を、以下ピックアップいたします。

   ・憲兵による住民の監視と「隣組」による住民同士の相互監視
   ・既存政党の解散とフィリピン版大政翼賛会の押し付け
   ・マカピリ(比島愛国同志会)を利用した日本軍政に批判的な
    住民の密告と拷問
   ・英語やキリスト教文化の否定と日本語教育や日章旗掲揚や
    天皇崇拝の強要
   ・日本軍への反逆行為の遂行や企図に対する連帯性処罰
   ・現地通貨の流通禁止と軍票の乱発による物価が300倍以上もの
    インフレーション
   ・日本軍の自活の方針に伴う食糧の強制的な現地調達と略奪
   ・風土を無視して栽培作物の転換を強要したことによる農業の破壊
   ・資源調達の際の労働力の強制的な調達と過酷な労働条件

このように、軍政による悪影響は政策面に限定せず、経済にも及びました。「連帯性処罰」などは軍の解釈によってどこまでも対象の拡大が可能で、無関係の人間まで連帯性処罰を受けることがあり得ます。また、経済事情を無視したやり方は当然現地の人たちの反感を買い、「白人の搾取の方がましだった」という怨嗟の声が巻き起こることになります。

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日本軍がフィリピンで乱発した軍票(現在のコレヒドール島の太平洋戦争記念館で撮影)。軍票発行の狙いは、日本国内の国債発行額を減らし、フィリピンを含む南方占領地に軍事費を負担させることにありました。円やドル・金との交換ができず、通貨価値の全くない、日本軍の都合で乱発される、紙くず同然で全く役に立たない軍票のことを、現地の人々は「ミッキーマウス」、つまりおもちゃと呼んでいました。

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戦時下のフィリピンでの日本語教育の光景(いずれもNHKのDVD「証言記録―マニラ市街戦」より抜粋した写真)。

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抗日ゲリラを始めとする日本軍政に批判的な人間を摘発するため、日本軍政に協力的なフィリピン人で結成された組織、マカピリこと比島愛国同志会(NHKのDVD「証言記録―マニラ市街戦」より抜粋した写真)。彼らの密告で多くのフィリピン人が日本軍に連行・拷問・処刑され、フィリピン人同士の対立が生まれる悲惨な事態となりました。

虐殺で応酬し合う負のスパイラル

本土からの食糧や物資の輸送が滞る中、略奪の多発で現地の人たちの間に飢餓が生じ、それが抗日ゲリラの蔓延と住民のゲリラの支持につながり、ゲリラと住民の区別もつかなくなった日本軍により虐殺が起きても全くおかしくない状況でした。一方で、後に日本軍が敗走を重ねた際、復讐感情から日本兵を虐殺する抗日ゲリラや地元住民も多数いたわけですが、こうした虐殺の応酬、収拾のつかない負のスパイラルは、大東亜共栄圏や八紘一宇の持つ欺瞞や矛盾の最たるものだと言えます。

親日的な東南アジアの人たちと無用な軋轢を生まないために

現在の東南アジアの人たちはとかく温和で人懐こく、とりわけ日本人に対して好意的であることが、日本人が旅行や出張で東南アジアを訪れやすい最大要因でしょう。そんな現地の人たちと無用な軋轢を生まないよう、日本がかつて東南アジア諸国に迷惑をかけ、戦後の日本が東南アジア諸国の赦しによって再出発したことは、きちんと知っておく必要があります。

参考文献

東南アジア諸国での大東亜共栄圏や八紘一宇の実態についてさらに詳しく知りたい方には、以下の参考文献をお勧めいたします。



NHKの本なので多少の偏りはありますが、アメリカ側の不正やエゴ、現地の一般の人たちや抗日ゲリラによって行われた日本兵の虐殺などについても公平に書かれており、比較的中立的な書籍として一読をお勧めいたします。

また、日本の軍政時代を生きたフィリピン人の回想記としては、下記を参考文献としてお勧めいたします。


参考映像資料

また、映像資料としては同じくNHKの下記DVD資料をお勧めいたします。



マニラ市街戦の全貌を記録したDVD資料ですが、米軍や日本軍のフィリピンの統治についても触れられています。圧倒的多数の被害者はマニラ市民ではあるのですが、戦局のある局面では日本軍兵士たちも米軍兵士たちも被害者になったこともあることが、このDVDではきちんと公平で客観的な視点から記録されています。